サメと猫

太宰治「斜陽」

 読書歴が浅い自分には、読みたい本が次々に出てくる。なのに、人間失格を読んでからずっと、太宰治から抜け出せなくなっている。後半ネタバレなので、興味ある人は途中で読むのをやめてもらえたら。空白空けとくので。

 「斜陽」は、没落貴族となってしまった家族と、1人の作家の計4人それぞれの「滅び」を描いたような話で、その主な主人公は家族の長女かず子。弟の直治は戦争に出たきり帰っておらず、消息も分からないまま、体の弱い母と2人で暮らしていた。

 物語が始まったときにはすでに、彼らの生活は下降が始まっていて、読み進めるほどに落ちていく感覚がなんとも言えない侘しさを感じる。そこには何か明確な原因や、理由があるわけではなく、ただ時代の波に呑まれ流されていくようでやるせない。ただ重力に従って落ちていくような。全く関係のない不幸が重なって、そこに繋がりを見つけそうになるような感覚。








最後の直治の告白には、平等主義の歪みや、思想の危うさが表れてるのと同時に、直治本人にとても感情移入する文章だった。最後に書かれた、「姉さん。僕は貴族です。」という言葉。死に際、自分の生まれに誇りを持って書いたようにもとれるが、それよりも、その前にも書き残していた、どうしても払い除けることができなかった、貴族に生まれた故に生涯苦しめられた呪いに対する諦めの気持ちで書いたように見えた。この告白で一応の伏線回収のような展開になるが、その時には事実なんてほとんど想像がついていて、それよりも彼の強い感情に押され、強く印象に残った。名作...。